日常のスキンケアに加え、
お薬を上手に使用して
根気よく治療しましょう!
診察の際にすべてをお話しすることは難しいため、当院を受診される方の参考になるような内容をここに記載しています。
当院では日本皮膚科学会のガイドラインに準じて、アトピー性皮膚炎の治療に力を入れています。
アトピー性皮膚炎の治療では、ぬり薬が基本となります。当院ではさらに、光線療法、注射薬、内服JAK阻害薬など、患者さんの症状やご希望に応じて治療方法を検討し、アトピー性皮膚炎の症状が少しでも改善するよう診療しています。気になることがあれば、診察中に何でもご質問してください。
かゆみのある湿疹が左右対側性に生じ、乳児(1歳未満)では2ヶ月以上、それ以上の年齢では6ヶ月以上の期間、持続あるいはくり返す皮膚病です。
アトピー素因をもつ方が多く、ご家族の方にもアトピー性皮膚炎があったり、ご本人も気管支喘息やアレルギー性鼻炎・結膜炎をお持ちであったり、血液検査で血清IgEが高い傾向にあります。
アトピー性皮膚炎と皮膚症状が似ていて区別が必要な皮膚病があります。
脂漏性皮膚炎、皮脂欠乏性皮膚炎、痒疹、偽アトピー性皮膚炎(全身型金属アレルギー)などが代表的ですが、特に見逃してはならない皮膚病として、菌状息肉症(皮膚悪性リンパ腫)、疥癬(かいせん)、膠原病(SLE、皮膚筋炎など)があります。
このような皮膚病の可能性もありますので、なかなか治りにくい皮膚病の場合はご自身で判断されず、必ず皮膚科専門医を受診してください。
アトピー性皮膚炎を良くして、きれいな肌をキープするには、定期的に通院していただいて必要な薬を適切に使用することはもちろん、保湿などのスキンケア、ダニ対策やペットなどのアレルゲンに対する環境整備・悪化因子の除去、食事栄養療法、睡眠時間の確保などの体調管理、学校や職場などでのストレス軽減など、トータルに全身を管理することが大切です。
ステロイドのぬり薬はアトピー性皮膚炎の治療において、治療の中心となる大切な薬です。
皮膚の症状に応じて、適切な種類・強さの薬を、適切な量・回数、指導された通りにしっかりとぬることが大切です。
お一人お一人皮膚の症状は違います。同じ患者さんでも治療を開始すると皮膚の症状も変わっていきますので、どの場所に、どの薬を、1日何回、いつまで塗るのかを、その都度医師に相談するようにしましょう。
定期的に通院し、全身を管理することで皮膚の状態を良好に保ち、結果的にステロイドの使用量を減らしていくことができます。根気よくしっかり一緒に治療していきましょう。
ステロイドと同様に皮膚炎をおさえるぬり薬ですが、作用の仕方が異なり免疫担当細胞にしか作用しないため、特にステロイドを長期間使いにくい顔や首に適しているぬり薬です。
炎症を抑える強さは、ミディアム~ストロングクラスのステロイド外用薬と同程度とされています。ステロイド外用薬の長期間の使用でみられるような皮膚萎縮や毛細血管拡張といった副作用はほとんどありません。
2歳以上16歳未満では小児用のタクロリムス軟膏、16歳以上では成人用のタクロリムス軟膏を使用します。
使い始めは半数以上の人にヒリヒリ感などの刺激感が出ることがありますが、皮膚の症状が良くなるとともに刺激感も治まってきます。
プロトピック軟膏の有効成分の粒は比較的大きいため、症状のあるところからは吸収されますが、正常な皮膚からはほとんど吸収されないと考えられています。かゆみ・赤みなどの症状がある部位(目や口の周り含む)に塗ることができます。
ぬり薬できっちりと皮膚炎を抑えた(寛解導入)後でも、週に2,3回程度ぬり薬を使用して皮膚を良い状態にキープすることをプロアクティブ療法といいます。
特にタクロリムス(プロトピック)軟膏による治療で、その効果が多く報告されています。
症状が良くなった時に、いきなりぬり薬を中止してしまうのではなく、プロアクティブ療法を行い時々ぬり薬を使用していくことで、症状の再燃を有意に抑えられることが報告されています。しっかり毎日ぬり薬を使って症状が良くなった際には、いきなりぬり薬を中止せずに、プロアクティブ療法に切り替えていくべきか医師と相談して治療方針を確認しましょう。
2020年6月24日に発売のアトピー性皮膚炎に対する非ステロイド性の新しい塗り薬です。
チロシンリン酸化酵素であるJAK(ヤヌスキナーゼ:Janus Kinase)1、JAK2、JAK3およびTyk2を阻害することでアトピー性皮膚炎の症状を改善する新規外用JAK阻害剤です。
アトピー性皮膚炎は免疫が関与する炎症性の疾患です。
サイトカインであるIL(インターロイキン)-4、IL-13は主に炎症・皮膚バリア機能異常、IL-31は主に掻痒に関与すると考えられいます。
これらは細胞膜上の受容体に結合し、細胞内のJAK-STATシグナル伝達経路を介して遺伝子の転写を促進し、アトピー性皮膚炎の症状を発症・増悪させます。
コレクチム軟膏は、細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすJAKの働きを阻害することで、JAK/STAT経路を介するサイトカインシグナル伝達による免疫反応の過剰な活性化を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を改善する、世界初の外用JAK阻害剤です。
1日2回、患部に塗布する外用薬です(生後6ヵ月以上)。
2022年5月25日に発売された、大塚製薬兵庫県赤穂研究所で開発された第3番目の非ステロイド外用薬です。
アトピー性皮膚炎に対する初の外用PDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害薬です。
PDE4阻害薬は、炎症性サイトカインなどの化学伝達物質の産生を抑制し、抗炎症作用を発揮することでアトピー性皮膚炎の症状を改善します。
成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布します。小児(生後3ヵ月以上)には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布します。小児にも症状に応じて、1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができます。ちなみに、薬価は、ステロイド<プロトピック<コレクチム≒モイゼルトです。
非ステロイドの塗り薬が3種類になりましたが、決してステロイドの塗り薬が不要になったわけではありません。
基本的には、比較的強い症状にはステロイドの塗り薬、軽症の皮膚症状に対しては非ステロイドの塗り薬を使用しますが、詳しい使い分けは皮膚科医にご相談ください。
2024年10月に発売された新規作用機序のぬり薬です。
ブイタマークリームは、芳香族炭化水素受容体(AhR)を活性化することにより、さまざまな遺伝子に働きかけて効果を発揮します。
この作用機序に基づき、Th2サイトカイン(IL-4)といった炎症性サイトカインを低下させ、アトピー性皮膚炎における皮膚の炎症を抑制し、Nrf2経路の抗酸化分子の発現を誘導して酸化ストレスを低下させ、フィラグリン、ロリクリン、インボルクリンなどを増加させることで皮膚バリア機能を改善します。
アトピー性皮膚炎では12歳以上が適応になり、1日1回使用します。1回の使用量の上限は定められていません。比較的多い副作用としては、毛包炎(16.7%)、ざ瘡(12.9%)、頭痛(12.5%)があります。発売時点で3割負担で1本(15g)1,354円になります。
リガンド依存性に機能が調節される転写因子であり、食物や微生物、汚染物質、代謝産物といった様々な化合物によって活性化されます。
AhRは、①化学物質に対する防御、②微生物に対する防御、③エネルギー代謝、④細胞の発生と分化、⑤生殖、さらに⑥免疫系において免疫応答を調節する重要な役割を果たしています。
日常のスキンケアにとても大切なぬり薬です。
保湿剤にはバリア機能を補い、皮膚炎の再燃を予防する効果があります。
保湿剤の種類としては、ヘパリン類似物質(ヒルドイド)、尿素製剤(ケラチナミン、ウレパール、パスタロンなど)、白色ワセリン(プロペト)などがあります。保湿剤を塗るタイミングは、入浴やシャワー後すぐ(5分以内)に保湿剤を塗るのがもっとも効果的です。
一般的にはさらっとした保湿剤は暑い夏に、しっとりした保湿剤は秋~冬に使用します。
しかし、一番大切なことは、継続して塗ることです。使用感が合うもので、ご自身が継続して塗ることができる保湿剤を使用しましょう。皮膚全体を覆って膜をはるように、シワに沿って塗りましょう。
当院ではその他、敏感肌用の低刺激性スキンケア製品も用意していますので、ご自身のお肌に合うものをご使用ください。
アトピー性皮膚炎の治療の基本はぬり薬ですが、それを補助するための、かゆみを抑える内服薬です。
内服薬は皮膚の湿疹を治すものではありませんが、かゆみがあると皮膚を掻爬(そうは)してしまい、なかなか症状が治らないどころか、皮膚炎はさらに悪化してしまいます。その上、かゆみにより集中力が低下するなどの日常生活にも支障をきたします。かゆみが強い場合や掻いてしまうような場合には内服薬を併用しましょう。
かゆみを抑える抗ヒスタミン薬には多くの種類がありますが、眠くなりにくい非鎮静性の薬剤(第二世代抗ヒスタミン薬)をまず第一に選択します。
血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)を通過しやすい抗ヒスタミン薬では眠気が生じやすくなります。
眠気が生じやすい第一世代の抗ヒスタミン薬を使用する意義は乏しいので、第二世代の抗ヒスタミン薬を選択して処方します。
日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、紫外線療法はアトピー性皮膚炎における治療法の一つとされ、ステロイド外用薬を用いた治療に反応しない例や、従来の治療により副作用を生じている例に有用であるとされています。
アトピー性皮膚炎では、「かゆみと掻破の悪循環(itch-scratch-cycle)」により、さらに病状が難治になる傾向があります。
光線治療によるかゆみを抑える作用は、通常の外用療法や抗ヒスタミン薬の内服に反応しないような難治性のしつこいかゆみにおいて有効なだけではなく、長期に寛解(病状が治まっている状態)を維持できるため、ステロイド外用剤の使用量を減量でき、ステロイド外用薬の長期外用による副作用を減少させることができる有用な治療法です。
光線療法について詳しくはこちら2018年に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に対して保険適用となった注射薬(ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体)です。15歳以上が適用でしたが、2023年9月より生後6ヵ月以上の小児にも適用が拡大されました。
2023年7月には結節性痒疹に、2024年2月には特発性の慢性蕁麻疹にも適用が追加されました。
アトピー性皮膚炎では正常な皮膚に比べてTh2細胞が増加し、Th2細胞が産生する「IL-4」「IL-13」という物質が皮膚の炎症やかゆみを誘発したり、皮膚のバリアに大切なフィラグリンの発現を低下させています。デュピクセントはそのIL-4, 13の働きをを直接抑えることで、皮膚の2型炎症反応(Th2細胞による炎症)を抑制する新しいタイプのお薬です。詳細な作用機序としては、IL-4、IL-13が結合する受容体両者に共通しているIL-4Rαというサブユニットがあり、デュピクセントはこのIL-4Rαに結合することにより、IL-4受容体とIL-13受容体の両者の機能を阻害します。
アトピー性皮膚炎の皮膚の内部に起きている炎症反応を抑えることによって、かゆみなどの症状や、皮疹などの皮膚症状を改善します。
患者さんご自身が注射を行う「自己注射」が可能です。2週間に1回、自宅で腹部や太ももに自己注射します。
薬剤費が高額なため、自己負担額の上限を超えた費用が還付される高額療養費制度が適用となる場合があります。自己負担の上限額は、年齢、年収、加入している健康保険組合により変動します。
デュピクセントの投与により、喘息等の他のアレルギー性疾患の症状が変化する可能性があります。合併するアレルギー性疾患の主治医と連携をしながら治療を進める必要があるため、必ず皮膚科医にそのことをお伝えください。
くわしくは医師にお尋ねください。
デュピクセント相談室
操作方法と医療費制度へのご質問はこちらまで。
tel 0120-50-4970
1カ月(その月の1日から末日)の間に医療機関の窓口で支払うべき金額(自己負担上限額)が一定の金額を超えると、超えた分を高額療養費として支給される場合があります。ひと月の上限額は、年齢や収入などによって異なります。自己負担上限額(1ヵ月の上限額)につきましては、加入している健康保険組合にお問い合わせください。
2022年8月8日発売になった「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」に保険適用となった注射薬(ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体)です。6歳以上が適用です。
かゆみを起こすIL-31の働きをブロックすることで、アトピー性皮膚炎患者さんのかゆみを抑えます。
13歳以上では1回1本(60mg)、6歳以上13歳未満では1回1本(30mg)を4週おきに、上腕外側、腹部、大腿部などに皮下注します。
2023年6月1日から在宅自己注射が可能になりました。
通常、ミチーガの治療開始16週までには効果が現れます。ミチーガで治療中も、ぬり薬や保湿剤などを併用しながら治療をします。
2024年3月には、結節性痒疹にも適用が追加されました。13歳以上が適用で、初回に60mgを皮下投与し、以降1回30mgを4週間の間隔で皮下注します。
高額な薬剤のため、高額療養費制度が適用となります。ただし、年齢や年収により適用とならない場合もありますので、ご自身が加入している健康保険組合にお問い合わせください。
くわしくは医師にお尋ねください。
IL-31は主にTh2から産生される痒みを引き起こすサイトカインで、末梢神経に発現するIL-31受容体Aに作用することでかゆみを誘発します。さらに、末梢神経を表皮付近まで伸ばしてかゆみ過敏状態にします(通常は感じない程度のかゆみをかゆいと感じる状態にします)。
ミチーガは、IL-31受容体Aに競合的に結合することで、IL-31が受容体に結合することを阻害し、アトピー性皮膚炎によるかゆみ(そう痒)を抑える効果があります。
IL-31受容体Aは末梢神経のほか、好酸球、好塩基球、肥満細胞などの免疫細胞や角化細胞にも発現していることから、IL-31はかゆみだけでなく、炎症や皮膚のバリア機能低下にも関与していると考えられています。
2023年9月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に対して保険適用となった注射薬(ヒト抗ヒトIL-13モノクローナル抗体)です。15歳以上が適用です。
アドトラーザは2型サイトカインである「IL-13」に特異的に結合してその働きを抑えるヒト抗ヒトIL-13モノクローナル抗体です。アトピー性皮膚炎では、IL-13が過剰に産生されており、皮膚の炎症、皮膚バリア機能の低下、微生物叢の破綻が引き起こされています。さらにIL-13は、かゆみの発症、炎症の増悪、表皮肥厚に関与しています。アドトラーザは、過剰になっているIL-13の働きを抑えることでアトピー性皮膚炎の皮膚症状を改善します。
初回に150mgシリンジを4本(600mg)、以降は2週間おきに2本(300mg)を上腕、腹部、太ももなどに皮下注射します。
2024年5月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に保険適用となった注射薬(抗ヒトIL-13モノクローナル抗体)です。12歳以上が適用です。
イブグリースはアドトラーザと同様にIL-13をターゲットにし、かゆみを引き起こしたり、皮膚のバリア機能を弱める作用のある「IL-13」の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善させるお薬です。
初回と2回目は、1回につき2本(500mg)を2週おきに注射します。3回目以降は、1回につき1本(250mg)を2週おき、あるいは4週おきに注射します。
内服JAK阻害薬で治療を開始するには、事前に胸部レントゲン検査(CT検査)や感染症などの血液検査が必要なため、新規導入時には病院に紹介させていただきます。
当院は施設認定を受けていますので、病院での通院治療が難しい場合は当院での継続治療が可能です。ただし、定期的にレントゲンや血液検査で副作用のチェックが必要となります。
2020年12月に承認された、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に対する内服薬です。2017年から関節リウマチには適用を取得している内服JAK阻害薬です。2歳以上が適用です。
作用機序は、JAK1、JAK2を阻害することで、皮膚症状やかゆみを改善します。
2021年8月に承認された、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に対する内服薬です。2020年から関節リウマチ、関節症性乾癬には適用を取得している、オルミエント同様の内服JAK阻害薬です。12歳以上かつ体重30kg以上の患者さんが対象です。
作用機序は、JAK1を阻害することで、皮膚症状やかゆみを改善します。
2021年12月に承認された、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に対する内服JAK阻害薬です。成人及び12歳以上の小児が対象です。
作用機序は、JAK(主にJAK1)を阻害することで、皮膚症状やかゆみを改善します。
アトピー性皮膚炎では、IL-4, 13, 31, 5などのサイトカインが細胞表面の受容体に結合し、皮膚の炎症やかゆみの誘発、皮膚バリア機能の低下を引き起こす刺激を与えます。
JAK(Janus kinase ヤヌスキナーゼ)は、細胞の中でサイトカイン受容体に結合することで、サイトカインの刺激を細胞内へ伝達する酵素です。JAKにはJAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があります。
JAK阻害薬はJAKの働きを阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状を引き起こすサイトカインによる刺激を遮断し、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。
お子さまが自分で病院を受診して、薬を塗ったり、飲んだりして、アトピー性皮膚炎を治療することはできません。
お子さまのアトピー性皮膚炎を良くするのも悪くするのも、ご両親と医師の関わり方によります。
お子さまの肌を良い状態にキープするためには、われわれ大人がどのようにお子さまにかかわっていくかが非常に大切です。
アトピー性皮膚炎という病気について正しく理解して、以下のアトピー治療の3本柱について学んでいただくことが大切です。
① アレルゲン対策
② スキンケア
③ 薬
アトピー性皮膚炎の方では、乾燥肌(ドライスキン)の状態になっており、皮膚の表面から多くの水分が蒸発してしまうため、角質にふくまれる水分の量が減少しています。
そのため、皮膚のバリア機能が低下し、カサカサしやすく「肌が弱い」状態になっています。
フィラグリンとは、角質層で分解されることで保水機能や紫外線吸収能をもつ天然保湿因子としてはたらく作用をもち、皮膚のバリア機能にとって非常に重要な分子です。
日本人のアトピー性皮膚炎の方では、20~30%の方がフィラグリンの遺伝子に変異があるといわれています。フィラグリン遺伝子に変異がない方でも、アトピー性皮膚炎のほぼすべての方でフィラグリン蛋白が減少しているためドライスキンになるといわれています。
そのため、アトピー性皮膚炎の方では、肌の良い状態をキープするためにも保湿剤を定期的に使用することがとても大切です。
食物アレルギーはアトピー性皮膚炎の方に多く発症します。
アトピー性皮膚炎の方はドライスキンにより皮膚のバリアが障害されている状態のため、アレルゲンが皮膚から簡単に侵入することができてしまいます。
つまり、バリアが障害された皮膚に食べ物が接触することで、簡単に食べ物に対して感作(アレルギーが成立すること:経皮感作)が起こってしまうため、アトピー性皮膚炎の方には食物アレルギーが多く発症しやすいと考えられています。
また、フィラグリン遺伝子変異がある人は、食物アレルギーを発症する可能性が高いとも言われています。
Itch-Scratch-Cycleとは、かゆみが掻破(そうは)を誘発し、掻破が皮疹を発症あるいは増悪させ、皮疹の悪化によりさらにかゆみが増すという悪循環のことです。
アトピー性皮膚炎では、バリア機能障害、免疫異常(type2炎症)、かゆみが、それぞれ相互に作用し、病態の形成に関わっていることが明らかになっています。
かゆみを引き起こす物質としてヒスタミンが有名ですが、抗ヒスタミン薬を内服してもアトピー性皮膚炎のかゆみは完全には抑えられません。近年、免疫異常である「type2炎症」が注目され、IL-4, 13, 31というサイトカインによってもアトピー性皮膚炎のかゆみが引き起こされることがわかってきています。
かゆみのために皮膚をひっかくと、かゆみが抑制されるのではなく、逆にかゆみが増強されます。ひっかくことで皮膚が傷つき、さらにバリア機能が弱くなり、炎症やかゆみをまねくという悪循環(Itch-Scratch-Cycle)に陥り、アトピー性皮膚炎が長引き、悪化する原因となります。
Itch-Scratch Cycleには「ブドウ球菌の感染」も影響を及ぼすといわれています。アトピー性皮膚炎患者さんの皮膚では健常人に比べてブドウ球菌属の占める割合が高く、黄色ブドウ球菌は健常人ではほとんど検出されませんが、アトピー性皮膚炎患者さんでは皮膚の炎症がないときにも検出され、湿潤部位のみでなく乾燥部位や非病変部からも多数の黄色ブドウ球菌が検出されやすく、特に症状が再燃した時には顕著に増加するといわれます。
黄色ブドウ球菌はエンテロトキシンを始めとする毒素を産出します。エンテロトキシンは、アレルゲンとして肥満細胞から化学伝達物質を放出させる他、スーパー抗原として細胞を非特異的に活性化させたり、局所の細胞または浸潤細胞から起炎症サイトカインを遊離させて、アトピー性皮膚炎を悪化させると言われています
汗をかきやすい夏にアトピー性皮膚炎の症状が悪化することが多くあります。
確かに汗には皮膚炎を悪化させる物質が含まれていますが、症状を悪化させないためには汗をかかない方が良いのか、というと必ずしもそうではありません。
汗には本来、保湿機能、体温調整機能、抗菌ペプチドという感染防御機能という効用があり、アトピー性皮膚炎の患者さんには発汗障害があるため、汗をかくことで症状が改善する可能性があります。
そのため、汗をかかないようにするのではなく、汗をかいたら洗浄力の強い石けんを使用せず水道水のみで十分にシャワーをする、シャワーができなければぬれタオルやおしぼりなどで汗を拭き取るということが、汗に対する対策として勧められます。
汗や汚れはすみやかにおとしましょう。強くこすらないように気をつけましょう。
アトピー性皮膚炎の症状は、良くなったか悪くなったかを見た目の皮膚症状で判断することが多いと思います。しかし、一見皮膚炎がないように見えるけれど、実は皮膚では炎症が残っているような場合もあり、なかなか見た目で判断しにくい場合も多くあります。
当院ではこのようなケースに対して、TARCという測定方法の血液検査をおすすめしております。TARCはアトピー性皮膚炎の状態を鋭敏に反映するので、その数値を見て、以前よりも良くなっているか悪くなっているか、数字で客観的に皮膚の状態を判断することが可能です。数値が高ければ、たとえ見た目は良くてもまだまだ皮膚炎は抑えられていない、と判断することができます。
TARCの数値を低い状態にキープしようという、治療の意欲向上にもつながります。
当院では、月に1回の検査をおすすめしています。
ぬり薬を使う量は、FTU(フィンガー・チップ・ユニット) という考え方を目安にします。
軟膏であれば、大人の人差し指の一番先から第一関節まで押し出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積にぬることができます。よく処方される5gのチューブでは大人の手のひら20枚分ぬることができます。
ローションであれば、1円玉程度(直径2cm)の大きさで、大人の手のひら2枚分の面積にぬることができます。
ぬった後に、少し光沢があり、しっとりとして、ぬった部分にのせたティッシュペーパーが落ちない程度になるのが適量です。
皮膚にすり込まないように塗りましょう。すり込むのは皮膚を傷めるだけです。
※プロトピック軟膏は口径が小さいため、1FTU(2.5cm押し出した量)=約0.25gです。2FTUで大人の手のひら2枚分に相当します。
A1:「アトピー性皮膚炎の診断基準は、①かゆみのある湿疹が、顔・耳周囲・首・手足の関節・体などに左右対称性に生じること、②乳児(1歳未満)では2ヶ月以上、それ以上の年齢では6ヶ月以上の期間、症状がくり返すことです。この2点が特徴です。症状の軽い重いは関係しません。
アトピー性皮膚炎と診断する検査は存在しないため、患者さんから「検査もせずにアトピー性皮膚炎と診断された」という誤解に結びついてしまいます。以前から乾燥肌、敏感肌、肌が弱い、という自覚症状や湿疹をくり返す経過がある場合は、アトピー性皮膚炎の可能性がありますので皮膚科でご相談ください。」
A2:「アトピー性皮膚炎は色々な要因が影響して発症する病気です。遺伝的な要因もありますが、必ずしも遺伝するわけではありません。先天的(遺伝的)な要因だけではなく、後天的な要因もあると考えられます。何か単一のことが原因ではなく、アトピー性皮膚炎の発症に関してはまだまだ多くのことが不明です。
症状と経過をみて、皮膚科医によりアトピー性皮膚炎かどうか診断します。ただし、アトピー性皮膚炎に似ている皮膚病もあります(上記)ので、これらの疾患を除外することが大切です。」
A3:「まだ不明なことが多いのですが、現在わかっていることとして、皮膚のバリア機能障害と、ハウスダスト(チリダニ)、花粉、食物などへのアレルギーを持ちやすい体質がある病気です。
皮膚のバリア機能障害とは、簡単に言うと、乾燥肌(ドライスキン)・敏感肌、ということです。
バリア機能が弱いため、外からの刺激(石けん、洗剤、シャンプー、化粧品、汗、衣服が擦れる、髪の毛が当たる、掻く・こする、花粉など)によって、すぐにかゆみが出たり、皮膚炎(湿疹)が出やすい「敏感肌」の状態です。
さらに、細菌やウイルスが皮膚に入りやすく、とびひ、水イボ、単純ヘルペス(カポジ水痘様発疹症)などにかかりやすい傾向にあります。
また、かゆみの知覚神経が皮膚の表面近くにまで伸びていて、かゆみを感じやすくなっています。
バリア機能の低下による乾燥肌・敏感肌を改善するために大切なことが「保湿」です。
上記の「乾燥肌(ドライスキン)とフィラグリンについて」もご参照ください。」
A4:「皮膚のバリア機能障害に対して、保湿、汗対策、清潔といったスキンケアを毎日行ないます。皮膚を清潔に保ちつつ、バリア機能を補うために保湿剤を使用し、皮膚症状がある部位には適したぬり薬をしっかり使用しましょう。
治療の基本はぬり薬です。皮膚炎(湿疹)に対して、ステロイド、プロトピック、コレクチム、モイゼルトなどのぬり薬をしっかり塗りましょう。
しっかりとぬり薬を使用することでかゆみもおさまりますが、かゆみが強い場合や掻いてしまうような場合には、抗ヒスタミン薬の内服薬を併用します。抗ヒスタミン薬は湿疹を治すものではありませんが、どうしても掻いてしまうとなかなか症状が治りません。その上、かゆみにより集中力が低下するなどの日常生活にも支障をきたします。
それでも症状が治りにくい場合やかゆみが強い場合は、光線療法を併用します。詳しくは光線療法ページをご覧ください。
治療をしっかり行なっても難治で広範囲に皮膚症状がある場合は、デュピクセント(注射薬)やオルミエント、リンヴォック、サイバインコ(内服JAK阻害薬)の使用を検討します。かゆみが強く生活に支障をきたす場合には、ミチーガ(注射薬)の使用も検討します。
ストレスや不規則な生活などでも症状が悪化しますので、ストレスの発散、生活習慣を整えましょう。
食物で"じんま疹"が出る場合を除き、通常食事の制限は特に必要ありません。栄養のバランスのとれた食事を心がけましょう。
アトピー性皮膚炎の治療は年々進歩しており、根気よくしっかり治療すればお肌を良い状態にキープできますので、一緒に頑張りましょう!」
A5:「現在は、昔ほどのアトピービジネスが横行していませんが、根拠のない民間療法や脱ステロイドという甘い言葉には注意が必要です。
アトピー性皮膚炎の歴史は、1980年代は特に厳格に食事療法がなされ、1989年にステロイドバッシング報道が始まり、1990年代はステロイドバッシングや脱ステロイドの美化、民間療法によるアトピービジネスの隆盛がありました。
その原因の一つは、"アトピー性皮膚炎はアレルギーである"という考えのもと、「アレルゲン探し」が重視されたことにあります。アレルゲン探しが強調されるがあまり、ステロイドバッシングやアトピービジネスが横行し、皮膚で実際に生じている炎症(皮膚炎)を治療でコントロールする認識が抜け落ちていました。
アトピー性皮膚炎は寛解・増悪を繰り返す慢性の湿疹です。特定の何か一つのアレルゲンが原因の病気ではありません。スキンケアやステロイド外用薬などの薬を適切に使用しながら、長期寛解(皮膚の良い状態)を維持することが最も大切です。ステロイドは治療の中心となるぬり薬ですが、現在はステロイド外用薬以外にも、プロトピックやコレクチム軟膏などの非ステロイド外用薬、内服薬、注射薬、光線療法など、多くの治療選択肢があります。
皮膚科医としても、患者さんのことを考えると、ステロイド外用薬などの治療薬を一切使用せずに皮膚を良い状態でキープできることを望んでいますが、繰り返しになりますがアトピー性皮膚炎は何か一つの特定の原因のない繰り返す慢性の湿疹ですので、ステロイド外用薬を含めた根気のいる治療が必要です。
ちなみに、ステロイドは体内で分泌される生命維持に欠かせないホルモンであり、悪者ではありません。ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎に限らず多くの皮膚疾患の治療に必須の薬であることに間違いありません。」
A6:「ステロイド薬にはぬり薬と、飲み薬があります。
飲み薬は、全身的な副作用(高血糖、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症、感染症など)が出る可能性を考え、長期間内服する場合は注意しながら継続する必要があります。
一方、ぬり薬は、定期的に皮膚科に通院し、指導されたぬり方を守っている限り、全身(内臓)に及ぶような副作用はほぼ出ません。
通常、アトピー性皮膚炎の治療には、ステロイドの飲み薬は使用しません。
心配なことがございましたら何でもご相談ください。」
A7:「ステロイドのぬり薬の副作用として、ぬった部分に皮膚の萎縮、毛細血管拡張、ざ瘡、酒さ様皮膚炎、多毛、皮膚感染症が生じることがあります。
ステロイドのぬり薬は皮膚科診療において非常に重要な薬ですが、漫然と使用しているとこのような症状が現れる場合があります。ただし、ステロイド外用薬が皮膚に蓄積することはありません。
アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイドのぬり薬が中心となりますが、皮膚の状態に応じて、ステロイドではないプロトピック軟膏、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏も使用します。
症状が治りにくい場合や広範囲に皮疹がある場合は、光線療法や注射薬(デュピクセント、ミチーガ)、内服JAK阻害薬による治療も当院では積極的に行なっています。
定期的に皮膚科医院に通院され、医師の指導のもとにメリハリのある外用治療を行い、症状・部位に応じて適切にぬり薬を使用することをおすすめします。」
A8:「アトピー性皮膚炎は慢性の皮膚疾患ですので、症状が出ている部分にステロイド外用薬などの治療をきっちりおこなっていくことが大切です。
ステロイド外用薬を含む治療薬を突然中断すると症状が悪化します。これはアトピー性皮膚炎が悪化したのではなく、きっちりと症状が抑えられていない時に突然治療を中断したことが原因です。症状に応じて適切に薬を使い分け、症状が落ち着いてきても突然治療を中止せず、徐々に減量していくことが大切です。」
A9:「それはありません。火事が起こったときに水で消火すると、焼け跡に黒くなった炭が残ります。アトピー性皮膚炎に限らず、湿疹や皮膚炎は皮膚に炎症(火事)が起こった状態で、ステロイドは炎症を抑える「水」に相当します。
火事が起こった場合、水をかけたために焼け跡が黒くなるわけではないことはおわかりいただけると思います。水(ステロイド)を使用しなければ、さらに広い範囲が火事(皮膚炎)となり、黒くなる焼け跡(炎症後色素沈着)の範囲はさらに広くなります。
炎症後色素沈着が生じて皮膚が黒くなりやすいのは、炎症(皮膚炎)が長引いて治った場合や、掻いたために炎症(皮膚炎)が悪化して治った場合です。
少しでも炎症後色素沈着を残さないためには、早期からステロイド薬などでしっかりと治療することが大切です。治療が遅くなると炎症が長引き、苔癬化といってガサガサした分厚い皮膚になり、なかなかぬり薬も効きにくくなってしまいます。」
A10:「その原因の一つは、ぬる量や回数が少ないためです。きっちりと指示された回数、お薬を塗っているでしょうか?
ステロイドはぬり薬であれば、ほとんど全身(内臓)に副作用は出ませんので、医師に指示された強さの薬を、指示された回数・量をしっかりとぬりましょう。ぬり薬を使う量は、FTU(フィンガー・チップ・ユニット) という考え方を目安にします。上記のFTUの項目をご覧ください。
その他の原因としては、治りにくい部分に「刺激」が繰り返しあるためです。刺激とは、ついついボリボリ掻いてしまう刺激、毛先や服や襟などが擦れるなどの刺激、汗がたまる部分の刺激、お風呂でこする・洗顔などでこする刺激、などです。刺激を避けて保湿をしっかりしてスキンケアをしましょう。
それでも良くならない場合は、ステロイド以外の治療法を追加する、あるいは他の皮膚病の可能性を含めて検討する必要がありますので、皮膚科専門医にご相談ください。」
A11:「アトピー性皮膚炎の治療の基本はぬり薬ですが、治りにくい症状の場合は、光線療法、注射薬、のみ薬(内服JAK阻害薬)による治療も検討します。
光線療法と注射薬による治療は、当院でいつでも開始することができます。
のみ薬(内服JAK阻害薬)の場合、基幹病院で事前の検査(血液検査、胸部レントゲンなど)を受ける必要がありますので、まずは病院に紹介状を作成させていただきます。お気軽に医師にご相談ください。 」
A12:「①症状がない、あるいはあっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない。②(このレベルに達しない場合でも)軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらないことです(日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021より)。
アトピー性皮膚炎は長期に渡って繰り返す疾患ですが、適切に良い皮膚症状を維持することができると、自然寛解も期待することができる疾患です。」
A13:「当院は保険診療を基本とした皮膚科クリニックですが、美容皮膚科での医療レーザー脱毛(蓄熱脱毛) をしています。
アトピー性皮膚炎をしっかり治療しながら、脱毛をしている患者さんも多くおられます。湿疹をくり返しやすい方、肌トラブルがある方でも安心してご相談ください。
アトピー性皮膚炎がある方では、医療レーザー脱毛治療をすることで、カミソリ負けによる毛剃りの刺激がなくなり、湿疹や肌荒れを起こしにくくなるメリットがあります。
まずは皮膚科を受診して下さい。症状の経過をみて、脱毛レーザーの治療時期を検討していきます。」
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